いやこの日も暑かった…ダーリンの転勤で急に辞めることになった職場の仲間の送別会(にかこつけた飲み会・笑)に半分まで出席して、「え~行っちゃうの~?」の声にちょっぴり後ろ髪を引かれつつ千駄ヶ谷へ。汗だくになりながら某お方(笑)と待ち合わせて国立能楽堂に足を運びます。道すがら、普通の能狂言の会に必ずいらっしゃる着物姿のお客さんはほとんど見かけず。みな比較的ラフな格好で能楽堂の門をくぐって行かれます。若いカップルやら親子連れやらちょいとギョーカイ系の雰囲気を持った人やら…雑多な人々が集まった見所は実にリラックスモード。座席もほぼ満席。前日には笑福亭鶴瓶師匠もみえていたそうですが、今回は脇正面最後方のそのうしろ…いわゆる"御簾の中(笑)"の席だったにも関わらずオペラグラスの携帯を失念(泣)。始まるまでに有名人捜しを楽しもうかな~なんて思っていたのですがね(苦笑)。
※ご挨拶
開演のブザーが鳴り、切戸口よりナンチャン登場。黒紋付に袴、手にはマイク。ビックリしましたー!!そのなんとカッコイイこと(笑)!!以前今回のこの企画についてワイドショーの取材を受けて語っていたナンチャンですが、その際も淡い色の羽織袴姿で実に似合っていたのを思い出しました。実物は更にカッコイイ♪
一度口を開ければもうソコはナンチャンの話芸が冴えわたります。こういうところはさすが売れっ子芸能人、あっという間に見所のハートを掴む。「狂言と現代のコントが結婚して、出来る子供がこの舞台です。お客さんには是非、助産婦さんの気持ちになって『どんな子が生まれるのかな?』と見守って欲しい。」共演者についても「狂言とルー大柴…600年の伝統と"トゥギャザーしようぜ!"…」「狂言とウド鈴木…600年の伝統と"天野くぅ~~~ん!(←ウドちゃんのモノマネ)"…」と、見所を笑いの渦に巻き込みます。とにかく話が上手いし、そこに座長としての大きな存在感と、内に秘めた責任の重さを感じます。『ウリナリ狂言部』から始まった今回の経緯を語るに於いて、亡き野村万之丞師の遺したモノへの熱い思いも分かりました。
今回のお客さんの中には、狂言を観るのもこのような能楽堂に来るのも初めての方が多かったのではないかと推測されますが、もし慣れない空間に来て緊張している方が居たとしても、このナンチャンの話芸で随分気持ちがほぐれたのではないかと思います。
※『萩大名』
管理人、恥ずかしながら万蔵師、というか野村萬家の狂言はコレが初見でございます(爆)。今回の舞台鑑賞の目的はまず第一に『ウリナリ狂言部』の一つの成果を見届けることでしたが、同時にやっと萬家の狂言を観られるというのも大きな楽しみでした。
野村の本家(という言い方で良いのでしょうか?)ということで、先入観(爆)としては基本にしっかりと則った、よく言えば生真面目…視点を変えれば堅苦しい(失礼!)。そんなイメージを持っていましたが、いざ始まってみると…確かに(もしかしたらそれは万蔵師ご自身のキャラクターなのかも知れませんが)生真面目な、誠実な舞台ではありますが、ほのかに泥臭さも感じる、意外に骨太の印象を受けました。
ナンチャンの「ご挨拶」で見所の空気がかなりほぐれていましたので、正統派の狂言が始まってもあらためて畏まるようなことはなく、皆さん大声で笑っていらっしゃいました。私が座っていた"御簾の中"は何故か一様に実にノリが良く(笑)、万蔵師演じる大名がおバカな受け答えをする度に歓声に近いような笑い声が起こっていました。
今回の企画のコンセプト"狂言とコントが結婚したら"に合わせたワケでは無いのでしょうが、今まで観た万作家と茂山家の『萩大名』よりも、やや現代風にテンポアップした感じを受けました。まぁそれでも、機関銃のようにポンポンとネタが飛び出す現代のコントに比べればはるかにユックリズムなので、どちらかと言えばTVの人気者達目当てで来たお客さまが多いだろうこの見所のことを考えると、始まる前は反応がちょっと心配だったのですが杞憂だったようです。私も初の本家狂言を大いに楽しませていただきました♪
※『萩代議』
【選挙を控えた大柴代議士は、以前からの賄賂工作や家族の浪費・不祥事の補填やもみ消しの為に選挙資金が足らずに困り果て、大金持ちで文化の通人と言われる金満家の当主を訪ねて金の無心をしようとします。当主は訪れた客に自慢の庭を見せて一句詠んでいただくのを趣味にしているので、普段はそのような趣味など持たぬ代議士はなんとか句を詠もうと悪戦苦闘。秘書から"ブロックサイン"で句の言葉を送ってもらったり、あやしげな英語で(学歴詐称でテキサス大を出たことになっている)ごまかそうとしたり…】
『萩大名』の大名を、現代の代議士に置き換えた現代狂言。と言っても、登場人物はスーツ姿ではなく、裃や袴姿。シテ(笑)のルーさんはラメ生地の裃の胸に議員バッヂを付けています。橋掛かりに先頭で登場したルーさん、なんか上半身がブレてる(笑)。威張りくさった代議士のイメージで肩で風切って歩いているのか。意外に細身で驚きました。後に続く秘書と通人は若手お笑いコンビのエネルギー。この二人の後ろ姿が実に凛々しい!お二人ともそこそこイケメン(そこそこって失礼?・苦笑)な所為か舞台映えがします。
ストーリーは本家本元『萩大名』のパロディーになっています。シテのルーさんは現代的なセリフと、本家と同じ言葉遣いを混ぜて繰り出しますが、演出上かも知れませんが現代的な方に流れていたと思います。かっこつけすぎで逆に格好悪い台詞回しやあやしげな腰つき(笑)など、普段TVなどでお馴染みの"ルー大柴ワールド"全開!しかしここは、敢えて狂言の型にきっちりはめ込む部分と、ここぞというところで繰り出す"ルー大柴節"をハッキリ分けておいたほうが良かったような気がします。ルーさんが元々お持ちの胡散臭さや俗物振り(失礼極まりないです~・笑)が、この現代になぞらえられた代議士という役柄に実にぴったりなだけに、きちっとした型の中からその人間性を滲み出させてくる方がより効果的ではないでしょうか。徹頭徹尾"ルー大柴ワールド"ではどうしてもメリハリが無くなってしまっていたように思います。ルーさんがはまり役なだけに本当に惜しい!!
対するエネルギーのお二人は、これはもう見事なまでに型をやり通して立派に"狂言師"していたのが驚きでした。ルーさんが現代寄りだったのは、このお二人とのコントラストを考えてのところもあったかと思います。ピンと通った背筋にしっかりとした足取り、明晰な語り口は堂々たるもの。どーにもならん俗物の代議士の下で我慢して働いている真面目な秘書という役割にピッタリ。通人も意外に腰の据わった様子がうかがえて、なるほど文化にも通ずるお金持ちといったおもむき。プロフィールを見なければ二人とも若手狂言師だと勘違いされたかも知れません。もちろん見る方が見れば違いは歴然でしょうが、そのくらいしっかりと稽古を積んできたのだなぁと思った次第です。
学歴詐称にひっかけた英語のオチは少々弱く感じましたが、古典の狂言であれば可愛げのあるおバカさんの大名が、現代の代議士に生まれ変わるとアクの強い、裏暗さも持った俗物に変身する、その違いがとても面白かったです。前述のように惜しい部分はあったものの、とにかくルーさんがはまってました。蛇足ながら、ナンチャンのご挨拶の中に「今回、ルー大柴が近年まれに見る出来というオリジナルのネタを盛り込みます。本人は『上半期の流行語大賞も取れる』と意気込んでおります。」みたいなくだりがあったのですが…さてはて、この『萩代議』の中にソレを盛り込んだのでしょうか(大爆)??思いっきりスベっていたかも知れません(苦笑)。まぁそうであってのルーさんとも言えますが(笑)。
※『連句』
【下級役人の神様である東方朔(とうほうさく)は、天上の木や花の元気が戻るようにと上司である大神の命を受けて、元気の素となる美しい言葉を探しに下界に降りてきます。やって来たのは現代日本。まず最初に出会ったアキバのヲタクと一緒になって美しい言葉を求めますが、聞こえてくるのは元気を萎えさせるきたない言葉ばかり。途中で出会った詐欺師や代議士、建築業者からも美しい言葉は得られず、しまいにはクラブで踊って憂さ晴らしを始めてしまう東方朔。そこに大神と部下の童子が現れ、東方朔に下界での成果を尋ねますが、美しい言葉に出会えなかった東方朔は仕方なく、ここで覚えた言葉を連ねます。これがたまたま意味の通る美しい句となって、喜んだ大神は東方朔を褒めて任を解き、天上に帰るよう命じます。出会った下界の人々と名残を惜しみつつ、天上に戻る東方朔。】
今回の企画のメインディッシュとなる"現代狂言"。全体的な印象から言えばほぼ現代コントと言ってしまっても良いかも知れませんが、要所要所に狂言の型や表現方法を織り込んで(特にシテの東方朔ナンチャンは言葉にも動きにもしっかりとした様式性を持っていて非常に格好良かったです♪)舞台の中にコントラストを創り出していました。BGMは打楽器・笛(笙や篳篥も使用)・三味線の3名が地謡座のあたりに陣取って奏でられます。この音楽がエスニック調で実に良い!シルクロードの香りがふんわりと漂う土着的なサウンドは、故・野村万之丞師のアイディアに間違いないでしょう。人間の血肉に直接訴えかけるような土臭い芸能の息吹が感じられました。
ナンチャンの東方朔は烏帽子に紅い狩衣風の装束。天野っちのヲタクは白いつなぎにキャップにデイパックという"いかにも(笑)"ないでたち。大河ドラマその他でも実力は実証済みのナンチャンと、声の良く通る天野っちの掛け合いは、ギャグ仕立てながらなかなか見応えがあります。特に、東方朔の言葉遣いを真似して様式語りになる場面での天野っちは、このような衣装でいるのがもったいない(笑)ほどの朗々とした台詞回し。万之丞師がお元気だった頃の狂言部『盆山』をもう一度観たくなりました。個人的には様式の中の天野っちも観たかったと思っています。
詐欺師役のウドちゃんはもうウドちゃん以外の何者でもなく(笑)。目に鮮やかな黄色の上下スーツで橋掛かりに登場した時には、詐欺師というより福の神(爆)が似合うんじゃないだろうかと思うほどおめでたい。マヌケで全く人を騙せない詐欺師という点でははまり役だったのかも知れませんが…セリフを忘れたり、共演者との動きが合わなかったり、どこまでが天然でどこまでが演出なのやら観ているこっちは幻惑されるばかり(苦笑)。天野っちとの掛け合いが「久々にキャイ~ン漫才か?」と思わせるシーンも。それさえ予定通りなのか偶然なのか…ちょっと残念だったのは、ウドちゃんの立ち位置の関係で脇正面の席にお尻を向けてしまうポーズが多く、その状態であのウドちゃん喋りが始まるとほとんど何を言っているのか聴き取れない(爆)。詐欺師の講釈の内容は未だ謎です(笑)。
下界で様々な人間達に出会いながらも、美しい言葉を全く見つけられない東方朔はついにヤケを起こしてその人間達と一緒にクラブ(ちゃんと今風に"平坦イントネーション"でしたね・笑)に行くことになるのですが、そこで狂言と同じく"場面転換"があります。このあたりは、さすがに本職狂言師の方達のようにはいかなかったかな。実際は目に見えていない"背景の変化"をお客さんに想像させるテクニックは、当然ながら本職の方々が上。クラブでのドンチャン騒ぎシーンは、TV等で見慣れた出演者達そのままのキャラを見せており、ナンチャンは「ウリナリ社交ダンス部」よろしく、BGMに合わせてタンゴを披露(笑)。女性ダンサー役を務めた大柴代議士の秘書(代議士のあまりの横暴に耐えかね、同じクラブで飲んだくれていた)も袴姿でキビキビとした動き。ダンスが終わると見所から大きな拍手が巻き起こりました。
特別出演の万蔵師はさすが、大神役で橋掛かりに登場しただけで舞台の空気を一変させました。東方朔と同じ様な紅い狩衣風の装束に、手には白い撞木杖。ゆったりと大きく舞いながら橋掛かりを舞台へと進んでいきます。万蔵大神の足元に雲のような霞のようなモノが"見えて"くる…まさに「雲に乗って下界に降りてくる神様」そのもの(笑)。東方朔の帰りが遅いので大神自ら出向いて"美しい言葉集め"の成果を聴きに来たのですが…残念ながら東方朔の顔は暗い。出会った人達からもらった言葉はどれもこれも元気の萎えるものばかり。それでも仕方なく、東方朔はそれらの言葉を"収穫"として並べます。
ところが、この言葉の連なりが偶然に美しい意味を持つ一句となり、ソレを聞いた大神はたいそう喜んで東方朔を労い、その句を持って天上に戻るよう命じます。東方朔との別れを惜しむ下界の人間達。BGMは『赤とんぼ』(笑)。それぞれが何かと荒んだ気持ちを抱えていた人間達は、この偶然に出来た美しい句のお陰で心が和んだよう。おのおの自分のもといた場所に戻っていき、最後に残った天野ヲタクは東方朔の烏帽子と自分が被っていたキャップを交換、友情の証しとして去っていく。舞台上にはキャップを被った(笑)東方朔。BGMは再びアップテンポのエスニック調になり、東方朔が気持ちよさげに舞いながら橋掛かりに向かいます。ナンチャンの動きが実に大らかで、ハッピーエンドの余韻を更に深くしてくれました。
能楽堂が揺れるかと思うほどの拍手の中のカーテンコール。東京公演の最後ということもあって、出演者皆さんにホッとした表情がうかがえました。実は一番リラックスした表情だったのが万蔵師だったような(笑)。カーテンコールは3回だったような気がするのですが、某お方によると「もっとやったんじゃなかったっけ?」。手拍子と割れんばかりの拍手が全く止みません。最後には橋掛かり上でナンチャンと万蔵師の連れ舞いが観られるというオイシイ展開(脇正面席はお得でした♪)。エスニックBGMも最高潮に達し、この舞いとこのサウンドが、祝祭のような空気を生み出していたのが凄かったです。
「まずはとにかくやってみよう!」という意気込みを強く感じる舞台でした。単純に整合感の見地から言えば5割ぐらいのまとまり具合だったと思います。TVの人気者達のお馴染みのキャラクターに頼った(敢えてそのようにしたとも考えられますが)部分も散見されましたが、あれやこれやとチャレンジした"ごった煮"の中に、強い芸能のエネルギーを感じることが出来たのが嬉しかったです。そして、多分"外の世界の人達"との交流でこれほど大々的だったのは初めてだっただろう万蔵師の、実に生き生きと楽しそうな表情に、こちらの頬も緩みっぱなしになりました。人気者揃いの厳しいスケジュールの中、一つの舞台を仕上げるのには並々ならぬ苦労があったことと思います。お空の上の万之丞師はこの舞台をどんな風に観ていたのでしょうね。
今回は「旗揚げ公演」。これからもこの企画をねばり強く続けていくことに大きな意義があるのではないでしょうか。是非次回も拝見したいと思いました。それにしてもナンチャンは終始あっぱれでした!
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