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狂言劇場 その六。

200906241832000 於:世田谷パブリックシアター

【2009年6月24日(水)19:00~ Aプログラム】

◆<二人の主人を一度にもつ狂言>『二人大名(ふたりだいみょう)』

 通りの者:野村万作  大名:高野和憲・深田博治
 後見:月崎晴夫

◆<二人の主人を一度にもつ狂言>『縄綯(なわない)』

 太郎冠者:野村萬斎  主:野村万之介  何某:石田幸雄
 後見:岡聡史

◆能楽囃子

 笛:一噌隆之  小鼓:鵜澤洋太郎  大鼓:亀井広忠

◆<面を使う狂言>『雷(かみなり)』

 雷:野村萬斎  藪医者:石田幸雄
 地謡:深田博治・高野和憲・月崎晴夫・時田光洋・岡聡史
 笛:一噌隆之  小鼓:鵜澤洋太郎  大鼓:亀井広忠
 後見:竹山悠樹

【2009年6月26日(金)19:00~ Bプログラム】

◆<面を着ける召使いの狂言>『清水(しみず)』

 太郎冠者:野村万作  主:深田博治  後見:岡聡史

◆能楽囃子

 笛:一噌隆之  小鼓:田邊恭資  大鼓:亀井広忠  太鼓:観世元伯

◆<面を使う狂言>『博奕十王(ばくちじゅうおう)』

 博奕打:野村萬斎  閻魔大王:石田幸雄  
 前鬼:高野和憲  後鬼:月崎晴夫  鬼:竹山悠樹・時田光洋  
 鉄杖鬼:野村万之介
 笛:一噌隆之  小鼓:田邊恭資  大鼓:亀井広忠  太鼓:観世元伯
 後見:深田博治・岡聡史

イタリアの"コンメディア・デッラルッテ(即興仮面喜劇)"ミラノ・ピッコロ座来日公演との"観比べ競演"に主旨を置いている為か、通常の『狂言劇場』よりシンプルな構成。「仮面」「二人の主人」などの日伊共通コンセプトに則って、各演目本来の面白みを素直に表現した企画となりました。

★Aプログラム

※『二人大名』

連れだって都に行くことになった二人の大名が、ちょうど使用人がみな出掃って留守なので、道すがら誰かに出会ったらその者に太刀持ちを任せようと話していると、ちょうどそこに一人の使いの者が通りかかります。大名達は声を掛けますがその男は太刀持ちを拒否。遂に刀で脅して無理矢理太刀持ちをさせることに。内心面白くない使いの者は、今現在太刀が自分の手の中にあることを利用し、逆に大名達を脅して腰の物や着物を奪い取ってしまいます。それだけでは飽き足らない使いの者、大名達に鶏や犬のまねをさせたり、京の都に流行る小歌を舞い謡わせたりとやりたい放題。散々なぶった揚句に、結局太刀も着物も奪って逃げてしまいます。

舞台奥の高い位置に太い松の枝の作り物が一本、横に伸びて掲げられています。周囲はシンプルに黒一色。橋掛かりは左右2本ですが大名'sも通りの者もどちらも通常の向かって左から登場していたような…ちょっと記憶が曖昧。

定番の爆笑演目。威張りん坊の深田大名と、ちょっと弱気(優しい?)な高野大名の対比がこれまた定番のコンビネーション。安心して大笑い出来ます。無理矢理持たされた太刀を逆手に取って大名'sを脅す万作通りの者が実に楽しそう。倅さん(笑)と同じように"いたずらっ子度"がどんどん増してくるのに気が付いた。

今更気が付いたんですが通りの者、大名'sを脅して腰の物や着物を奪い取る際、獲物を手渡しされる瞬間に手元でさっと太刀をひらめかせて威嚇するんですね。脅されてどんだけへっぴり腰になっていようと、腐っても鯛ならぬ侍(笑)、窮鼠猫を食むのたとえもあって、庶民からしたら反撃が怖い。ここだけ変な緊張感が漂います。太刀をふるう位置が大名'sの手元に物凄く近くて「うわーそれ危な過ぎ~斬っちゃってませんか?!」と思ってしまうのは私だけ?

犬や鶏の鳴きマネ、半裸(笑)で謡わされるちょいと色っぽい歌詞の小歌など、もう分かっちゃいるけど毎回笑ってしまいます。万作一座の鉄板コンビであるフカタン・たかのんの創りだす絵面はこういう場面ではさすがに映えますね。

初日の一発目から皆さん大笑いでございました♪

※『縄綯』

博奕(ばくち)に大負けしてしまった主人が、金だけでなく奉公人の太郎冠者までも博奕相手の何某に取られてしまいます。何も知らず、単なる使いとして何某の家に行かされた太郎冠者、そこで初めて自分が博奕の借金のカタにされたと知り大むくれ。新しい主人の何某に何を命令されても何かと理由をつけて全く言うことを聞きません。怒った何某、元の主人に太郎冠者を返すから借金は金で清算しろと迫りますが、主人は太郎冠者の本当の働き者ぶりを見せるからそれで勘弁して欲しいと頼みます。いったん元の主人に返された太郎冠者、大喜びで帰宅するとすぐに主人の言いつけに取り掛かり縄を綯い始めます。縄の端を主人に持ってもらいながら太郎冠者、何某やその妻子の悪口を鬱憤晴らしとばかりに得意げに語り続けます。しかし縄の端はいつの間にか入れ替わっていた何某の手に握られており、それに気づいてビックリした太郎冠者は何某に追い込まれて行きます。

"萬斎太郎冠者・万之介主・石田何某"と同じ布陣でこの『縄綯』を拝見したのがなんと7年前の「ござる乃座」。それから今までこのメンバーではもちろん、『縄綯』という曲自体観ていないように思うのですが…もしその間に観たならそれはあまり印象になかったってことになるか(爆)。多分無いと思います(苦笑)。

7年前もそうでしたが、何某の元へ"身売り"させられた萬斎太郎冠者のぶんむくれっぷりの可愛さがもう凶悪で(爆)。本来なら博奕の借金のカタに人身売買という、現代的観点から言えばトンデモ事態ではあるのだけど、何よりかにより身売り先の相手に堂々と突っかかる度胸と、物おじしない態度が小気味良い。何某はそれに怒ってしまうのだけど、萬斎太郎冠者は悪態をついても憎めない可愛さ全開状態なので、観ていて明るく笑えてしまいます。

召使いという立場の者の泥臭い生活感とか、使役される弱い立場の者の悲哀とか、確か初めて『縄綯』を観た頃は観劇の"先輩方"の視点を鵜呑みにして(苦笑)何かとしち難しく考えていたように思うんですが、このあっけらかんとした太郎冠者の…身売りさせられればぶんむくれ、元の家に帰れば喜色満面意気揚揚、コロコロと変わる表情にいち人間としての明るいヴァイタリティーを感じて、その楽しさで充分じゃないかと、今は思えてしまいます(笑)。初日とあって萬斎エンジンがフルスロットル、一人芝居のイキオイが付き過ぎてた感も無きにしも非ずですが…それはそれで笑っちゃいましたけどね(苦笑)。

元の家に戻ってから喋りまくる何某本人や妻子への悪口雑言は、確かに女性の容姿をあげつらったり、小さな子にちょっとした暴力をふるうところなど、今の価値観からは眉をひそめる向きも多いかとは思いますが、何よりこの萬斎太郎冠者の無邪気な明るさに上手く包まれて嫌なトゲトゲ感は全くないし、よくよく考えてみたら…もしこの悪口が何某の奥方に漏れてしまったところで、相手は相当の"わわしい女"と推測されます。多分何百倍にもなって太郎冠者に"お返し"が来るんじゃないかと思われますね(笑)。血ィ見る事態も懸念されそうだ(苦笑)。ガキんちょとの"戦い"も実のところは「良い勝負」なんじゃないかな?

そんな"アナザーストーリー"を想像してみるのも面白いかも知れません。

あ、余談ですが今回も縄は全く綯えてませんでした(笑)。あの手つきでは(略)。

※『雷』

都に住む藪医者が、稼ぎが悪くなったので東国で商売をしようと旅して来るその途中、広い野原に出ると急に空が黒い雲で暗くなり激しい稲光。雷が雲の切れ目を踏み外して地上に落ちて来ました。落ちる際したたかに腰を打ってしまった雷は、そばで震えている男が医者だと知って、自分の腰の治療を命じます。藪医者は雷の腰に針を打ちますが、打ち込むたびに情けなく痛がる雷様。それでも首尾よく快癒したので、藪医者はお代をいただこうとしますが雷にはお金の持ち合わせがない。代わりに向こう800年、日照りや水害から地上を守ると約束して、雷は空の上に帰って行きます。

Aプロ最後の演目で、やっと舞台装置が動き出しました(笑)。舞台後方の高い所に掲げられていた松の枝は外され、代わりにイラスト調の松の絵を描いた大きな垂れ幕が下がりました。

雷様登場シーンでさっそく稼働(笑)。稲光のライティングが会場中で激しく点滅する中、松の垂れ幕が船の帆のように上に巻き取られて、その奥から激しい雷鳴とともに「ぴかーり!!がらがらがらがら!!」のあのお馴染みの声が(笑)。一瞬、縞々スーツに"八つ墓村頭"のあのいでたちを真っ先に思い浮かべてしまったのは私だけではないはず(爆)。もちろん舞台の一番奥で太鼓を叩いて飛び跳ねていたのは白頭に錦糸のゴージャス装束の萬斎雷様。周囲には彩雲文様を型取って作られた"雲"がいくつか釣られて揺らめいております。

舞台奥からつつつつつつーと走って来てそのイキオイのまま前転、「あいたー!!」とひっくり返る様が情けない(苦笑)。したたかに腰を打って、たまたま居合わせた藪医者に針を打ってもらうことに。医者は横になった雷様の身体の上に"手かざし"をして患部を探ります。もしかしたら直接身体に触って確かめているという「型」なのかも知れませんが、観ているとどうもインチキヒーリングみたいに見えてしまってアヤシくてしょうがない(笑)。

使う針はまるで五寸釘みたいな大きさ太さ、それを手鏡のような形をしたトンカチで雷様の身体にガッツンガッツン打ち込む狂言的デフォルメはやっぱり笑えます。そのガッツンガッツンに合わせて「あいたっ!あいたっ!」と"海老反り⇔丸まり"を繰り返して悶える雷様に会場爆笑。雷神の威厳丸つぶれ(苦笑)。結局腰が治ったのは針(医者の腕前)のおかげじゃなくてその"海老反り⇔丸まり"運動のお陰じゃないんだろか(笑)。

元気になって再び雲の上に帰って行く雷様。治療代の代わりに向こう800年、天候被害から地上を守ると約束して舞い謡う。ちょいとオマヌケで少々心もとない雷様なのが心配ですが…そもそも最初に雲の切れ目を踏み外してるし~。

★Bプログラム

※『清水』

明日、茶の湯の会を催すことになった主人は、太郎冠者を呼び出して、茶に使う名水を野中の清水から汲んで来いと命じます。出かけた太郎冠者、このような面倒な仕事が茶会の度にあってはたまらないと思い、主人から渡された手桶を置いて水を汲まず帰宅。主人には「清水に恐ろしい鬼が出た」と嘘をつきます。主人は太郎冠者の話に驚きますが、置いておかれた手桶は家の大事なものなので、惜しくなり単身野中の清水に向かいます。太郎冠者は先回りして鬼の面を付け、やって来た主人を散々に脅かし、ついでに太郎冠者をもっと労わってやれと命令します。逃げ帰った主人、太郎冠者に鬼が何を言っていたか尋ねますが、鬼の口調を真似る太郎冠者の声があの鬼の声と全く同じなのに気づき、不審に思ったのでもう一度清水へ行こうと言い出します。再び先回りして鬼の面を付け脅しにかかる太郎冠者ですが、主人に面をはがされて全てが露見、主人に追い込まれて行きます。

倅さんが可愛い可愛いと思ってたらお父上まで(笑)。いや、お父上の可愛さはここのところ観るたびに証明済みなんですが、この『清水』はその中でも一、二を争うものだったかも。

鬼に化けて主人を脅すとは一見大胆に見えますが、よくよく聴いていると頼んでいることは「夏には蚊よけの蚊帳をつってやれ」だの「酒は惜しみなく飲ませてやれ」だの、それはもう生活感滲み出る"ささやかな幸せ"といったレベルのもの。普段の生活であれこれ用事を言いつけられて忙しいのは立場上しょうがないこととして、その中でちょびっと待遇改善して欲しいという"プチ反乱"と言ったところでしょうか。『縄綯』の倅さん太郎冠者のようにあっけらかんと反旗を翻すような度胸は無い、良い意味での等身大太郎冠者の姿が実に愛らしい印象。

「やばいな~やばいな~バレそうだな~…」とびくびくしながら主人と対峙する姿にくすりとしてしまいます。鬼が何を言っていたかと問われて、バカ正直に「とって噛もう~!」と大声で言ってしまい、慌てて「…とって噛もう…」と小さく縮こまって言い直すところなど、まるで親の前で必死にウソを吐く子供のようにも見えます(笑)。多分うすうす気づいているんだろうけど、その場では敢えて確かめず、もう一度野中に行って鬼に会うという主人は、内心「まったくしょーがない奴だな」と思いつつ、小心者の召使を軽くやりこめてやるつもりもあったのでしょうか。

さて、嘘をついてそれがバレてしまった以上、太郎冠者のささやかな待遇改善要求はこのまま打ち捨てられてしまうのでしょうか?酒はともかく蚊帳ぐらいは釣ってやれよー、とも思うのですが(笑)。

※『博奕十王』

亡者がみな極楽へ行ってしまうので喰いつめた閻魔大王が、獄卒達を従えて自ら"六道の辻"まで足を運び、亡者の到来を待ち構えています。そこに大きなサイコロを抱えた博奕打ちの亡者が通りかかるので、前鬼・後鬼がさっそく博奕打ちを捕まえて閻魔大王の前に突き出します。閻魔大王は博奕打ちの生前の罪状を浄玻璃の鏡に映し出して読み上げますが、博奕打ちが「娑婆では博奕は皆で寄り集まって楽しむもの」と言うので興味がわき、もし博奕打ちが負けたら彼を食ってしまうことを賭けて博奕を始めます。閻魔大王も獄卒達も、意地になって1の目にしか賭けないので博奕打ちに負け続け、逆に博奕打ちに道具やら着物やらをすべて持って行かれてすってんてんに。仕方なく博奕打ちの願いに応えて、彼に極楽への道のりを示してやります。

今回の『狂言劇場』では一番"凝った"構成になっていたと言えるでしょう。実にベタな演出ではありましたが(笑)。 舞台全体が"朱"を基調とした色合いで目に鮮やか。この演目だけ、床にも同じ基調のライティングが当てられていました。獄卒達のお揃いの赤頭がそのライティングに更に赤く映えています。 右の橋掛かりの奥、舞台袖の揚幕の周囲には地獄の業火を思わせるような炎の揺らめく姿が投影され、囃子の音色に合わせて揚幕が上がると、閻魔大王を先頭に御一行様が大量のスモークに包まれながらしずしずと登場します。

閻魔大王御一行、昨今は亡者がみな極楽に行ってしまって(仏教の広い普及がその原因)このままでは地獄が干上がってしまうと嘆き、六道の辻で亡者を待っていると…左の橋掛かりから萬斎博奕打亡者が登場します。六道の辻で獄卒'sに見つかり追い立てられると、それまで右の揚幕と床に投影されていた炎のライティングが、舞台全体にメラメラと広がって行きなかなか壮観。

1の目が出ないイカサマサイコロの仕掛けは、以前国立能楽堂で同演目を拝見した時のレポにある通りだと、今回舞台真正面の席からしっかり見て確認。巾着袋からサイコロをむき出しにして1の目を客席に向けて印象付け、袋と離す時にこっそり1の目を剥がす。この一連の動作、亡者を演じる当の御仁(笑)の普段のぶ●っちょっぷりを考えるとかなり冷や汗ものだったけど(苦笑)ここは無難にクリアしてホッ…国立の時は閻魔大王と亡者の配役が今回と逆だったのでそんな心配はしなかったけど(おい)。

1の目に賭け続ける閻魔大王、最初に見せられた真っ赤な1の目がよほど印象に残ったのか、はたまた閻魔様といえども"1番・ナンバーワン"というものにに惹かれるものなのか(笑)…前述の国立の舞台では、同じく万之介師が演じた鉄杖鬼が「1ばかりでなく5にしたら…」と忠告して退けられたあと、本当に5の目が出るという偶然があって大盛り上がりになりましたが、残念ながら今回は無し。こればっかりは運任せでしょうがないですがその瞬間は観たかったですねぇ。負け続けて装束まで取られた御一行、閻魔大王は赤の小袖、前鬼・後鬼は青の小袖。小袖は"裸"ですからまんま「赤鬼・青鬼」でしたね(笑)。

(イカサマ・笑)博奕に勝って極楽行きを許された亡者。ラストは舞台後方の黒い幕が上がってその先に"極楽への道(スロープ)"が出現します。これはAプロ『雷』で使ったものを応用。奥の一番高い地点で舞う亡者にスポットライトと金吹雪が降り注ぐ。亡者、極楽へ行ける嬉しさをあらわしてか、コイントスのように手にしたサイコロをぽいっと上に投げ上げる(今回のパンフに同じ写真が載っています)。手元が少々狂ったか、やや斜めに上がったのでキャッチの瞬間がちょい冷や汗もの(爆)。最後までヒヤヒヤする(泣笑)。

幕が今一度降ろされ亡者の姿が消えると、舞台上には身ぐるみ剥ぎ取られた閻魔様御一行が呆然とたたずむ。とぼとぼと退場していく姿に客席のあちこちから「ぷっ!」と吹き出す声が(笑)。普通に能狂言の退場の様子なんですが、あまりのみじめっぷりに皆さん笑いを堪えられません(私も)。「揚幕に入るまで拍手を控え静かに見守りましょう」みたいなお約束はこの構図の前に吹っ飛ぶわけで。お約束が頭にあるから堪えて堪えて、それでも吹き出してしまう。誰かが吹き出せばあとは連鎖反応(笑)。こういうエンディングの空気、お芝居としては実に自然だなぁと感じました。

ということで最初から最後まで実に楽しかったというわけです♪

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