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怨霊と鎮魂の芸能史。

200905201928000 拙宅の某常連さんから紹介してもらった一冊。発行元は能楽関係の書籍を主に取り扱っている檜書店(商品の詳細はこちら)。なかなか面白かったのでコチラ方面に興味のある皆様に是非紹介を、と思ったのですが…自分が書くよりこの常連さんが某所(笑)にて書いたレビューが鮮やかにキマっておられますので、御本人に許可をいただいてそのレビューを丸ごとこちらに写させていただきました。感謝感謝~heart04

以下、そのレビューです。

前半のテーマは「『平家物語』は怨霊鎮魂の書」です。

怨霊信仰というのは、古代から日本人が行ってきた「敗者をまつる」というシステムです。「まつる」は「祀る」であったり「祭る」であったりするのですが。

出雲大社のオオクニヌシノミコトしかり、北野天満宮の菅原道真しかり。

この世に恨みや無念を残して死んでいった人は、そのまんま放っておくと怨霊になって害を為すので、功績を褒め称えてまつり上げ、立派な神殿を造って鎮まっていただく。そうすると「怨霊」は「御霊(ごりょう)」となり、カミサマになって守ってくださるということです。こういったまつりごと(まさにマツリゴト=政でありますが)は、平安時代までは天皇を筆頭に、支配階級である貴族が担ってきました。

井沢氏は『源氏物語』も、藤原氏が臣籍降下した(源姓を賜った)源氏一統を衰退させたため、その償いとして藤原道長らがバックアップして書かせたものと見ています。

ところが。源平合戦の勝者である武士の源氏は、「敗者の平氏をまつり上げる」ことをしなかった。 源氏は怨霊信仰を持っていなかったのです。何せ武士ですから、いちいち「敗者は祟る」とか言うてたら戦いなんかできないわけですな。

むしろ平氏の祟りを畏れたのは京の貴族たちでした。そこで、平氏の魂を鎮めるために作られたのが『平家物語』というわけです。ちなみに吉田兼好の『徒然草』などによると、『平家物語』を作らせたのは、平氏と敵対していた関白九条兼実の実弟で、天台座主の慈円大僧正と伝えられているそうです。まさに仏教界のトップが平氏の鎮魂を手がけたわけです。

『平家物語』は単に文書として残されただけでなく、琵琶法師の語りによって庶民にも広まりました。ここで「物語」が「芸能」へと進化していきます。しかしこの時点ではまだ、芸能を担うのは「法師」という、いわば霊的にガードされた職分の人たちでした。そうでなければ、語りに引き寄せられた怨霊に憑かれかねないからです(「耳無し芳一」のような状態になるわけですな)。

後に猿楽能が『平家物語』や『源氏物語』を素材として演劇化する際に、問題になったのがこの点でした。何しろ霊を舞台上に登場させ、無念の思いを語らせるのですから。霊的に素人の、生身の人間に怨霊が憑いたらたまったもんじゃない。

そこで活用されたのが「面(おもて)」です。面をよりしろとして霊に降りていただき、終わったら面を外すことでお鎮まりいただく。さらに能舞台の楽屋に当たる「鏡の間」も、降霊・除霊の場として機能していたと見ることもできます。

こうして猿楽能が、普通の人間でも怨霊をコントロールできる手法を見いだしたことによって、時代が下った歌舞伎では、面も使わず「隈取り」だけで怨霊を表現することができるようになりました。

というのが井沢氏の「怨霊史観」から見た能楽の発展過程です。基本的に怨霊信仰がわかってないと、同意できない部分もあるかと思いますが、こうした考え方もできるということで。 この「面のシステム」の着眼点がおもしろいですねぇ。

能楽師の方々は、面を決して粗略に扱わず、面を着ける時にも恭しく押しいただいてから着けるそうですが。やはり何ごとか「ただならぬモノ」が憑いている、という実感はあるんでしょうかね。

昔は今よりもずっとずっと「霊」も「神」も身近な、それこそ存在を間近に実感できるほど側にあった、ということを理解していなければ、民俗史も芸能史も読み解けない、と思うことはよくあります。それが合理的か、科学的に正しいかは別にして、その時代の人にとってはそれが「真実」だったのですから。

現代の視点だけでは見えてこないことは、まだまだたくさんあります。

…という見事なレビューの末席を汚して申し訳ないのですがcoldsweats01ちなみに後半は実際の能の数曲をピックアップしてその背景を探る歴史探究コーナー「歴史の神に翻弄される源平の主役たち」。取り上げられた曲は『鉢木』『俊寛』『頼政』『木曽』『安宅』『朝長』『正尊』『船弁慶』。この本は著者・井沢元彦さんの、雑誌「観世」での連載と、大阪・大槻能楽堂自主公演能での解説を集めてまとめたものなので、これらの曲が上演された際に井沢さんの口から直接語られたお話も含まれていることになりますね。保元・平治の乱やら壇ノ浦に向かうまでの源平のさまざまな戦いやら、複雑に絡み合った事象や人間関係が非常に平易で分かりやすい言葉で綴られていて、歴史好きの歴史音痴(私ですshock)にも大変優しい作りになっています。前半と後半、ガラッと毛色の変わった話題になっていて、もうちょっとタイトル(芸能史)の部分にスペースを割いて話を広げて欲しいなぁという気持ちもなくは無いですが…。

ご興味の涌いた方はぜひどうぞhappy01

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