2009年5月9日(土)14:00~ 於:横浜能楽堂
◆解説 石田幸雄
◆狂言『茶子味梅(ちゃさんばい)』
唐人:野村万作 女:高野和憲 教え手:野村万之介
後見:深田博治
◆狂言芸話(十) 野村万作
◆素囃子『神舞』
大鼓:原岡一之 小鼓:鳥山直也 太鼓:大川典良 笛:成田寛人
◆狂言『鬮罪人(くじざいにん)』
太郎冠者:野村萬斎 主:石田幸雄
立衆:野村万之介・深田博治・高野和憲・竹山悠樹・中村修一・岡聡史
後見:月崎晴夫・時田光洋
※解説
こちらもこの会では恒例になりました、石田師のオープニング解説。「この『よこはま』ではあくまで万作先生の"狂言芸話"がメインですので手短に」といういつものおことわりから(笑)。
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今回の番組『茶子味梅』と『鬮罪人』、どちらも大曲ではないが見ごたえのある演目。それぞれに面白いネタが仕込まれていますがどこまでバラして良いものか(笑)。能の解説ならストーリー理解の為に説明が必要になってくるけれども、狂言はその限度が難しい(苦笑)。
まず『茶子味梅』は国際結婚の話。中国から九州・箱崎に流れ着いた中国人。彼は祖国の豊富な知識や技術を備えているので、日本側の為政者は彼に妻をあてがってなかなか祖国に帰そうとしない。やがて月日が流れ彼はホームシックに。「中国に残してきた妻に会いたい」と嘆く姿に一度は腹を立てた日本妻ですが、そこを物知りの男に諭されて夫に酒をふるまい慰めることに…その決着は?
ここでは"唐韻"という中国語っぽい言葉が使われるが、これはセリフを漢字の羅列にしてそれを音読みしている。良く聴いていると何となく意味が分かるかも知れません(笑)。
続いて『鬮罪人』は祇園祭の話。みなで集まって祭の山車をどうするかの相談をします。ここでは主役の太郎冠者とその主人の関係性に注目。この太郎冠者が一筋縄ではいかないタイプ(笑)。主人に何かと口出しをします。その繰り返しの面白さがあり、また山車の相談相手として複数の立衆が登場しますが、その大勢ものとしての面白さもあります。
太郎冠者の山車の案は、地獄の鬼が罪人を責める様を見せるというものですが、この場合の"責め"とは暴力をふるうことではなく、鬼が罪人を針の山や血の池に追い立てて行く様のこと。
このような狂言の会を催す際には普通、演目のネタや装束がかぶらないようにするのですが、この『茶子味梅』と『鬮罪人』にはどこか一つ"共通点"があります。2つの曲を比べてみてその共通点を探し出してみて下さい。
(ここで揚幕の奥から囃子方の音色が)
あの囃子の音色は「おしらべ」と言います。曲を始める前に囃子の調子を見るために音を出します。オーケストラで曲が始まる前に各楽器が試し弾きをするのと同じようなもの。その他に「お前の解説長ぇよっ!!」という合図でもあります(見所爆笑)。
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確かに手短に(笑)しかしくすぐりを適度に入れつつのユッキー解説でした。
※『茶子味梅』
九州は箱崎に住む、唐人(中国人)を夫に持つ妻は、最近夫が奇妙な言葉を言って嘆くので、近所に住む物知りの男に相談を持ちかけます。夫の「日本人無心我唐妻恋」という言葉を「中国に残した妻が恋しい」と訳されて妻は激怒。しかし物知りの男が「"ちゃさんばい"は『茶を飲もう』、"きさんばい"は『酒を飲もう』という意味だから、茶や酒をふるまって夫の心を慰めてあげなさい」と妻を諭すので、妻は帰宅すると言われた通りに、望郷の念にかられて泣いている夫に酒を勧めます。喜んだ夫は妻に所望されて唐の楽の舞を舞いますが、舞が終わるとまた「日本人無心我唐妻恋」と言って泣くので、さすがに妻も堪忍袋の緒が切れて、夫を追い出してしまいます。
万作唐人の姿がどうしても『唐人相撲』の皇帝とオーバーラップ(笑)。いでたちのグレードは全然違うんですが。最近とみに可愛さが増している万作師、ホームシックにかかって涙にくれる唐人の姿がまるでダダをこねる子供のよう(笑)。一見"重婚(爆)"のオイシイ立場に見えなくもないですが、某将軍様の国の"拉致"ほど悪辣ではないが、結局は"日本の利益の為"にこの異国にとどまることを余儀なくされている悲しい身の上ではあります。この日本人妻がそのあたりの事情をどこまで踏まえているのか…などという深読みは、高野妻の十八番、キレまくる猛妻の姿の前に雲散霧消(苦笑)。酒で慰められて機嫌を直し、楽を舞うその唐人の優雅な姿と心地よい囃子方の音色に誘われて、"眠りの壇ノ浦"に何度も片足を突っ込んでしまいましたが(泣笑)、その邯鄲の枕もかくやという至福の時を切り裂く高野妻の怒号(爆)。おっかねぇぇぇぇぇっ。
※狂言芸話(十)
「よこはま」名物(笑)万作師の"狂言芸話"も10回目を迎えました。黒紋付に袴のいでたちで切戸口より登場の万作師、舞台中央に正座すると「前回何を話したかメモを取っていなかったので忘れてしまいました(見所大笑)」といきなり大ボケ。ということで今回は最初に演じられた『茶子味梅』にちなんで中国と万作師との繋がりについてのお話に。
(以下、こちらも毎度のことですが不十分なメモを無理矢理繋げてのご報告(汗)。文の前後左右、かなりあやふやになりますので何か粗相がありましたらご指摘お願い致します。あと、お話の中に中国の方のお名前(京劇関係の方々中心)が沢山出て来ましたがさすがに聴き取れず。この点特に平にご容赦をば)
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最初に演じられた『茶子味梅』はそう頻繁には出て来ない珍しい曲。この『茶子味梅』は小説家であり劇作家でもある獅子文六さんが本名の岩田豊雄で発表した戯曲『東は東』の本ネタで、狂言の新しい活動スタイルとして武智鉄二先生の後押しを得て、茂山家が新作狂言として演じた。自分は『夕鶴』に出演(注:1954年)。こういう活動は当時能楽界からかなり非難を受けまして(笑)。茂山千作さんはあわや除名の憂き目に遭いそうに(見所汗笑)…(この手の話をする時の万作師のテンションがいつも高い・爆)
今回の『茶子味梅』で使用した装束、カンニン頭巾は北京で(この日の舞台の真っ最中に何度も落ちそうになったらしい・笑)、ハッピとその下の衣は南京で、足袋は台湾で購入したもの。公演で海を渡る度に買い足している。自分はこういう布地のことを「きれじ」と言うのだが、その度に周囲から笑われてしまうんですが(苦笑)…(万作師、「きれじ」連発・笑)。
来週中国公演に向かい、現地で『三番叟』『棒縛』『茸』を演じる予定。今回は北京大学での公演も予定されている。早稲田大学と北京大学の交流が深いので。何故中国に行きたいかというと、能狂言の源が中国にあるから。
文芸評論家の中島健蔵さんが日中文化交流協会の役員をされていた頃に、自分の方から「中国公演に行きたい」と頼んだら「今は文化大革命で大変な時期だから無理なんじゃないか」と言われた。それでも何とか訪中すると確かに文革の"四人組"がいて、あの江青がサッカー観戦をしているのを見かけたこともあった。田舎の方へ行ったこともあったが、そういうところでは戦時中の日本軍の悪口を散々聴かされたりした。そんなことをしている合間に、あの『茶子味梅』の衣装を集めたりしていたわけで(笑)。
京劇の方々との交流も長い。『世界~わが心の旅』というドキュメンタリー番組の収録で、その様子を納めてある。そこでは『舟渡聟』を披露したが、その『舟渡聟』の船頭の役を使い、京劇『秋江(しゅうこう)』を作って共演した。舟に乗って愛しい人に会いに行く女性と、舟をわざと揺らしたりしてその女性をからかう船頭とのやり取りを劇にした。京劇よりも古い昆劇(こんげき)の形態で演じた。
他にも何度か訪中を果たしている。日舞の花柳千代さんとご一緒した時は文化大革命の真っただ中、観世清和さんとご一緒した時は、帰国したのが天安門事件の前日だった、ということもあった。日本と中国の伝統的なものには深い所に共通項があると思う。その探究を続けている。
このたび、中国の芸術研究院・名誉教授の称号をいただくことになった。中国との長い文化交流に対するご褒美ではないかとは思っているが(笑)…理由を尋ねてはいるのだがまだ当局から返答がありません(見所大笑)。
『唐人相撲』を中国で上演したらどうなるだろう?皇帝と日本の相撲取りとの勝負の決着は曖昧にしてあるが、相撲取りが皇帝に勝つ話だったら中国では無理でしょうね(笑)。
中国のみならず、狂言公演は他のさまざまな国でやってきたけれど、実はその中で中国だけはまだ本当に喜んで観ていただけていないように思える。一般のお客の観劇マナーの問題も影響しているかも知れない。(狂言などの日本の伝統芸能を)専門的に勉強している人達の前では問題が無いが、一般の人達の前で演じるにはまだまだ反応が掴めない。今度北京大学の学生の前で披露するのも、その反応に興味がある。どのくらい分かってもらえるだろうか。
…ということで今回は中国のお話を中心に。これは間違いなく次回のためにメモを取っておきますので(見所爆笑)。
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今回も終始楽しげに、時折ちょろちょろと毒を吐かれつつ(爆)。
※『鬮罪人』
祇園祭の山車(だし)の当番になった主人は、出し物の趣向を相談しようと太郎冠者に命じて仲間を集めます。主人はまず最初に自分の案を出しますが、末席で聞いていた太郎冠者が横から口をはさんで主人の案に反対してしまいます。続いて集まった仲間達が別の案を出していきますが、太郎冠者はそれらにもことごとくケチを付けます。あまりの図々しさに怒った主人が太郎冠者を叱りつけますが、一同は太郎冠者の案を聞いてみようと主人をなだめます。太郎冠者は地獄の鬼が罪人を責める様を山車にしようと提案、主人は反対しますが他の仲間達は太郎冠者案に賛成。次に誰が何の役をやるか鬮(くじ)で決めることになりますが、鬮を引くと鬼役が太郎冠者で鬼に責められる罪人役は主人に。さっそく稽古が始まりますが、日頃から主人に抑え付けられている太郎冠者は、ここで鬱憤を晴らそうと、わざと杖で主人を叩くので、主人は怒って太郎冠者を追い込んでいきます。
萬斎師ファンなら"落とせない"一曲。それこそあの『彦市ばなし』と同じように、まるで"萬斎=太郎冠者"として当て書きされたんじゃなかろうかと思ってしまうほどのハマり演目。図々しいが憎めない、お邪魔虫だが可愛さが半端無くて許せる。見所の目を完全釘付けの太郎冠者ワールドがもうとにかくひたすら楽しいのであります(笑)。
素直にストーリーを考えて不思議なのは、なぜこうも簡単に皆"太郎冠者案"に乗ってしまうのかということ。主人案・太郎冠者案・立衆案それぞれ客観的に比べてみても、アイディアの斬新さ(斬新かなー・苦笑)にそう大差ないように思うのだけど…いや、それよりも先に、なぜ誰も太郎冠者のお邪魔虫っぷりを諌めない(除く・主人)???まぁあくまでお話の流れだけで背景を考えてみると、この主人、よほど普段から仲間内で信用が無いのか…または狂言のオチパターンの一つとして"主人はやりこめられる"というのに則していると考えるのが妥当でしょうが、そんなお決まりの予測をぶち破っちゃうのがこの萬斎太郎冠者。このプリティ極まりないお邪魔虫が乱入してくると、まるで魔法にでもかかったように全て受け入れてしまう立衆御一行、という景色に見えてしまうのが不思議。理屈抜きのこの"ぶっ壊し"っぷりは一種のトリックスターと言っても良いのかも(笑)。野村萬斎専用仕様太郎冠者という認識でよろしいでしょうか(爆)?
いざ稽古を始めて、罪人役の主人をつっ突くたびにぎろりと睨まれるとヘタレ犬の如くビビりまくるのさえ、まるで王様の叱責に舌を出して逃げ回る道化のようにも見える。ビビっているのか遊んでいるのか…まぁどっちでも良いじゃん楽しくて仕方がないっす♪そうそう、脇正面最前列のお客さん達のリアクション最高!例の"武悪面ずらしてにっしっし笑い"の真っ正面にあたるこちらの皆様、一斉に「ぷっ!」と吹き出してました~。いや~さすがこの演目の為にわざわざ脇正面をチョイスする方々の気持ちが痛いほど分かります。こちら正面では「にっしっし」の後の、主人をうかがう"鼻の下伸ばしオマヌケフェイス"をたっぷり拝めましたので(大笑)。
ということで"5月1日の悪夢"は見事払拭出来たようでございます(苦笑)。めでたく大笑いして気分もすっきり!ところでこの会の冒頭、石田レクチャーにあった「『茶子味梅』と『鬮罪人』の共通点」って何だったんでしょう???「最後は杖で追い込まれる」じゃああまりにも当たり前過ぎて問題にならないような気がするし…はて???
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