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狂言ござる乃座39th。

2008年3月1日(土)14:00~ 於:国立能楽堂

◆狂言『内沙汰(うちさた)』
  右近:野村萬斎 妻:石田幸雄 後見:高野和憲

◆狂言『因幡堂(いなばどう)』
  夫:野村万之介 妻:深田博治 後見:野村良乍

◆素囃子 男舞
  大鼓:柿原光博 小鼓:鳥山直也 笛:栗林祐輔

◆狂言『塗師平六(ぬしへいろく)』
  塗師平六:野村萬斎 師匠:野村万作 妻:高野和憲
  地謡:石田幸雄・深田博治・月崎晴夫・竹山悠樹・時田光洋
  後見:岡聡史

※『内沙汰』

仲間と伊勢参宮をすることになった百姓の右近は妻も誘おうとしたが、一緒に参加する裕福な百姓の左近が馬で行くのに対して自分達は徒歩になるので、まるで従者のようでイヤだと妻に断られてしまいます。右近は妻に左近の牛に乗っていけばよい、左近の牛が自分の田の稲を食べてしまったので、その弁償として牛を貰い受けると言います。夫が地頭に訴えてでも牛を手に入れると言うので、妻は訴訟の稽古を夫につけてやろうと、地頭に扮します。まずは左近のマネで訴訟を再現してみせる右近ですが口達者でそつなくこなす。次に右近自分自身として、妻の演じる地頭の前に出ると急にしどろもどろ。地頭の厳しい物言いに怖さの余り気を失ってしまいます。妻に起こされた右近は、左近への対応の方が甘かったと、妻と左近の仲を疑い始めます。呆れた妻は夫を打ち倒して退場、疑いの晴れない右近は憮然として去っていきます。

2度目の『内沙汰』。前回は自分の羨望の的である左近の物真似が妙に堂に入っているところが、屈折した右近の心情(コンプレックス)を示しているように見えて、心理ドラマ的奥行きを感じる不思議な曲だと感じましたが、今回はその時よりライトな雰囲気で(前回は初見だったので余りに強烈に受け取りすぎたかも知れません)、右近のへっぴり腰ぶりがひたすら笑えるという印象でした。今回も、妻が実際に左近とそういう関係だったのかどうか、その真偽のほどは曖昧(安易に匂わせないところが良いのかも・笑)。最後の最後、「お前と左近はデキてるだろう!!」と捨てぜりふを吐きながら橋掛かりを退場していく右近の表情が、座席の位置からつぶさに見て取れました。一見無表情、しかし心の奥底には憤怒の炎が燃えさかっているといった体。変に形相を崩していないのがかえって怖い。前半のライト感覚がガラッと変わって、見所全体が重苦しい空気に変わったように思えました。なんとなく…この旦那さん、いつかプッツンして奥さんを刺しちゃうんじゃないか(爆)。前回の方がずっと外に向けて発散して「ふざけんなよこんちくしょー!」と叫んでいるように感じたのですが…。妻への疑惑、左近に勝てないコンプレックス、自分への自信の無さ、いろいろな感情が入り混じった上でのあの"重たい無表情"だったのでしょうか。

※『因幡堂』

大酒飲みでぐうたらな妻を持つ夫が、妻が実家に戻ったのを幸いと離縁状を送りつけ、新しい妻を授かろうと因幡堂に詣でます。納得出来ない妻は夫を追って因幡堂に行き、そこで仮眠を取っている夫を見つけると、本尊の薬師如来の振りをして夫に「新たな妻が西門の一の階(きざはし)で待っている」とお告げを下します。霊夢を得たと大喜びの夫がさっそく西門に赴くと、果たしてそこには衣を被った女が一人立っています。夫はその女を自宅に連れ帰り、婚礼の盃を交わします。すると女が何杯も酒をおかわりして盃を返さないのでいぶかしく思っていると、その女が被っていた衣を外し、中から現れたのは離縁したはずの妻。騙された夫は妻に追い込まれていきます。

うーん、いかんいかん…どうも万之介師の"飄々+まったりズム"が心地よすぎて、時折壇ノ浦の水面に足が滑り落ちそうになる(大苦笑)。決してつまらないのではなく、ひたすらあのお声と台詞のリズム感が気持ちいいんですよね~。なのでしっかりとした記憶が余りなく面目ございません(泣)。覚えているところでは、"新しい妻"と思い込んで喜んでいる夫のなんともいじましい可愛らしさと、先日の横浜『まちがいの狂言』でますます女っぷりを上げた(爆)深田師が、ここでも見事に悪女(?)の空気を撒き散らしていたのが印象的でした。

※男舞

笛・大鼓・小鼓の最小ユニットですが、小気味よいテンポと意外な音の厚さがなかなかでした。笛のお方、お名前を存じないのですが一発目の音のインパクトで結構気に入ってしまいました(笑)。それにしても"素囃子"だからしょうがないんですが、良い演奏を聴けた時は特に「せっかくこれだけの音なんだから誰か舞っておくれよぉ~」といつも思ってしまいます。なんだか勿体なくて(苦笑)…。

※『塗師平六』

都に住む生活に困った塗師が、弟子の平六を頼って越前の国にやって来ます。応対をした平六の妻は、腕が立つ師匠に居座られては夫の商売の邪魔になると考え、平六は死んだと嘘を吐いて塗師を追い返そうとします。そうとは知らず当の平六が顔を出してしまい、慌てた妻は夫を物陰に隠して事情を話し、夫に幽霊に化けるよう言い含めます。妻は更に、塗師に夫の菩提を弔って欲しいと頼み、持仏堂に案内して二人で念仏を唱えていると、そこに幽霊に扮した平六が現れ、塗り物になぞらえた謡に合わせながら餓鬼道の様子を舞って見せます。

夫の力量を客観的に判断し、策を練って夫の利益を守ろうとする賢い奥様が健気でございます。なんとなく無頓着でノーテンキそうな夫(平六)と割れ鍋に綴じ蓋でしょうね(笑)。妻の策略はつゆ知らず、のこのこと師匠の前に出て来てしまうところがスラップスティック的で大笑い。平六は単純に師匠に再会したいだけなんですが、妻は後々の事まで考えて、ここは心を鬼にして滞在させてはいけないと言う。それでも会おうと言うなら離縁してくれとは、そこまで腹くくって夫の仕事を案じてるんだなぁ。

後半はがらりと様相が変わって、夢幻能形式になりちょっとビックリ。黒頭に白っぽい水衣、顔には亡者?の面、手には漆の皿と刷毛の"幽霊平六"が登場すると…これがフツーにちゃんと怖いんですよ(苦笑)。『武悪』のような、ちょっとユーモラスな幽霊(のふり)とは大違い。亡者?の面は最初、能で使う中将なのかと思いましたが、後で休憩時間にご一緒した方に訊いたところ、狂言オリジナルのものではないかとのこと。武悪面やうそふきとは違って、リアルに幽霊に見えるタイプのものだったと思います。萬斎幽霊の"餓鬼道の舞"が圧巻。これはもう普通に"バケモン能の後シテ"でしょう。バケモン能好きの自分は「一粒で二度美味しい」状態でお得でした(笑)。

章がパンフに載ってましたが、最後に「塗籠他行(ぬりこめたぎょう)」という言葉がありまして、これが「納屋に隠れて居留守と偽る」という意味であることを考えると、幽霊の振りはしていますが平六、やはり師匠を騙していることにちょっと良心の呵責があるんじゃないでしょうか。幽霊の扮装がバレるというようなオチもなく、舞いが終わって自然に終演となるのですが、この「塗籠他行」の一言に、師匠への思いが籠められている。この言葉に師匠が気づいていたとすれば、オチの無い余韻の中にまた一つドラマがあるように思いました。

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パンフの「萬斎でござるXXXIX」に、『鞍馬天狗』撮影中に左足の親指の爪を剥いだアクシデントを共演の石原良純さんにバラされてしまったと書かれていましたが、ラストの寄稿文の主がなんとその石原さん(笑)。もっとガンガンバラして欲しい撮影エピソードではあります。桂気象予報士、是非また別の折に宜しくお願い致します!それにしてもあの悲惨な状態で、前回のござる乃座・『鳴子』でドンドン足を踏み鳴らし、野村狂言座・『越後聟』では"一人ドラリオン"を敢行…いやはや、萬斎師のプロ根性とバイタリティーには頭が下がりっぱなしです。どちらの公演でも負傷の気配すらありませんでしたから。

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