新春狂言 万作・萬斎の世界。
2012年1月28日(土)15:00~ 於:埼玉会館大ホール
◆解説 石田幸雄
◆『昆布売(こぶうり)』
大名:野村万作 昆布売:高野和憲
後見:中村修一
◆『仁王(におう)』
博奕打:野村萬斎 何某:石田幸雄 男:野村万作
参詣人:月崎晴夫・中村修一・村井一之・内藤連
後見:高野和憲
6年ぶりの県庁所在地公演。地元市内を電車で移動、気分は普段着w 席は1階のかなり後方でしたがちょっとしたゲレンデ並みの傾斜が付いているので観るのにストレスはありません。高さは横浜能楽堂の正面2階ぐらいあったかも。2階席合わせて1300余りの座席が見事に埋まる光景は見事。市民としてちょっと嬉しいw
※解説
今日初めて狂言を観るという方は?(結構な数の挙手)多いですねぇ。これが半々ぐらいだと(解説が)やり難い。「また同じ話してやがるな」と言われそうで(会場笑)。
狂言は最初、とてもとっつきにくいと思う。人間で言えば「第一印象の悪い奴」(会場笑)。しかし、何度か観るのを重ねるうちに段々慣れて来て楽しくなるもの。もし今日、観終わって「あまり面白くなかったなぁ」と思ったら、是非また機会を設けて観て慣れていただきたい(会場笑)。
舞台は一辺5.4mの正方形。「三間四方」の空間。基本的に舞台上には何も無い。能楽堂の場合照明も明るいまま、お囃子以外の音響効果無し、演者はメーキャップもせず素のままで装束をつける。「無い無いづくし」なので、演者の言葉と動きだけで全てを表現する。舞台から与えられる情報量が少ないので、観ているお客さんには胸の中で状況を膨らませて想像して欲しい。ボーッと観ているとボーッと終わってしまう(会場笑)。お客さんも舞台に「参加する」気持ちで観て欲しい。
想像が必要なのだから、演者が「ここに垣根がある」と言ったら垣根があると思って欲しい。具体的な小道具などもあまり使わないので、例えばこの垣根を「切る」場面では、扇をを鋸切りに見立ててやる。(ここで『盆山』から垣根を鋸切りで切る場面を演じる)こういうのをやってると「あいつ馬鹿じゃねぇか」とか思われそう(会場大笑)。そんな大したことはやってないのだが。「ズカズカ、メリメリ」など、効果音は自分の声でやっている。
狂言はだいたい始まりが面白くない。それこそサスペンスの「ドアを開けたら死体があった」みたいな掴みはない(会場爆笑)。幕が上がって演者は橋掛かりを摺り足でゆっくりゆっくり入って来るが、この間も何も言わない。この辺りで初めて観た方は「今日はやっぱり観に来るんじゃなかった」と思うかも知れないけれど(会場大笑)そこはちょっとだけ我慢して欲しい。
幕からやって来た演者がこの舞台上に足を運んで初めて「名乗り」をする。「この辺りの者でござる」というのが多いが、これは特定の地域や特定の人を示しているのではない。今日の会場は浦和だから「浦和辺りの者」とざっくり考えてもらっても構わない。そして舞台上で具体的な場面転換は無いから、こう歩き回って(実演)また正面を向いて「何かと言ううちに○○じゃ」と言ったらその○○という場所に着いたのだと思って欲しい(会場大笑)。
狂言のストーリーは単純。歴史的な事を知らなくても充分楽しめる。現代にも通じる人間の面白さを表現しているので。まぁそれでも前もって少しでも知っておけばより楽しめると思うので今日の演目についていくつか。
『昆布売』には大名が出て来るが、いわゆる何万石とかいう大大名ではなく、普通の侍にちょっと貫禄が付いた程度。いつもはお供を連れているのに、今日は一人で歩いているので恰好がつかなくて恥ずかしい思いをしている。そこにたまたま通りかかった昆布売りに声を掛け、嫌がるのを刀で脅して、無理矢理太刀持ちのお供にしてしまう。道中、逆に刀を持った昆布売りが大名を脅し、昆布の売り歌を大名に謡わせる。最初は脅し脅される関係だが、やがてその売り歌が楽しげになり、二人が「和楽」の世界に入って行く和やかな空気を感じ取っていただきたい。
『仁王』は人間を仁王様に扮装させて、賽銭やお供物を騙し取る話。当時、世の中が乱れたり暗くなったりすると(「末法思想」と言っていたか?)「どこそこに神が、仏が現れた」とうような奇跡の噂が世間に流れるような風潮があった。それを逆手に取った博奕打ちと知人の男。皆、博奕打ちが化けた仁王を本物だと思っていろいろお供えをするのだが、最後の方に仁王に大きな草鞋を掛けようとやって来る者が出て来る。当時、無病息災・健康を願って仏様や神様に草鞋を供える習慣があった。博奕打ちが仁王に変装する時は、一旦楽屋に引っ込んで、というようなことはしない。舞台の上でお客さんに背中を向けて着替えが行われるので、ちょっと変な感じがするかも知れないが少し辛抱して待っていて欲しい。
(解説の最後に、萬斎師トークよろしく"repeat after me"コーナーが。『昆布売』の売り歌で『にほんごであそぼ』でも一時流れていた「♪昆布召せ昆布召せ~、お昆布召せ~~~♪」を会場全員で。「普段あまり大きな声を出すことも無いでしょうし、下手に出すと近所迷惑だと言われかねませんがw 狂言では大きな声を出さなくてはいけないので、ここは遠慮なくストレス解消のつもりでお願いします」と石田師。最初は結構合っていたのですが、ちょっと節回しが変わって来ると一気にバラバラにwww 皆さん失敗に笑いながらも大きな声で歌ってました。)
ベテラン・若手取り混ぜて何回か観ている記憶。前半のやや無茶ぶりwな展開と、後半の実に狂言らしいのんびりとした可笑しさのコントラストが、思ったより難しいように最近は感じています。ここはまたまた(前日の新宿文化『鬼瓦』もそうでした)国の宝・万作師の独壇場でした。特に後半の、逆に脅されて昆布の売り歌を謡わされる何とも言えない頼りなさが良い。相手が悪過ぎるけど、その大名と相対する高野昆布売りがちょっと霞み加減で、下剋上的展開の痛快さは薄かったかもです。後半、昆布売りが大名を良いようにコントロールしている感じがもうちょっと欲しかったかな。
コチラも意外にちょこちょこ観てるかも。ホール向けの分かりやすい面白さ満載で客席は終始笑いの渦でした。萬斎仁王は以前どこかの公演で、片手を挙げたままのポーズが限界になって少しずつ手が下がって来る場面に出くわしたこともありましたがw今回はポーズも「阿吽」の表情もバッチリ決まってますます会場の笑いを誘っていました。あんなに遠くの席だったのにそれでも分かるくらいの「爆発顔」でしたwww
参詣人には前日と同じように若手登場、それぞれの役割(お祈りの仕方)をピシッと決めてました。お供物の錦の袋を偽仁王の手首では無く指(小指という情報がw)に引っ掛けたのには爆笑wいやソレは仁王がキツいでしょうwww果たして仁王役のアイディアか、若手の茶目っ気か。演目違いかもですが、京都の茂山家では願掛けの中身にアドリブを入れて、例えば「今年こそ阪神タイガースが優勝しますように」みたいな台詞を入れたりしますが、今回はお客さんのノリが凄く良かったので一瞬「何か願掛けで茂山さんちみたいにやらかしてくれないかなぁ」と思ってしまった(苦笑)。まぁ確かにそれは野村さんちの流儀では無いですけどね…。
草履を掛けに来る足の悪い男は万作師。これ、今は亡き万之介さんが凄く似合う役柄でしたよね。万之介さんのはどうも最初から「この仁王はアヤシイ」と見抜いてそうな感じで、仁王の身体を撫でるのもまるで分かって意地悪しているように見えたのが思い出されます。万作師の男は素直に仁王と信じ切ってやって来た感じ。「この足をどうにか直して欲しい」という切実さも感じました。仁王を撫でまわして「御利益」の付いた自分の手を、今度は自分の身体に摺りつける腰振りアクションが可笑しくて可笑しくてwww一瞬、阿呆面満開の仁王を喰ったぐらいw そう言えば萬斎博奕打・石田知人の男・万作足の悪い参詣人とゴールデントリオだったんだなぁ。何気に豪華でした。
客席は爆笑に次ぐ爆笑。露見した博奕打ちが足の悪い男に追い込まれていくラストは場内割れんばかりの拍手喝采、後見も引っ込んだ後に終演のアナウンスが流れてまたまた大きな拍手。席から立ち上がったお客さんの口ぐちから「ひゃー笑った笑った」と感想が。満員の場内にそんな感想が飛び交っているのがまるで自分の事のように嬉しくなって不思議な気分。ほっこりとした気持ちになって埼玉会館を後にしました。





























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